出張講義「薬学部における生体リズム研究」10月7日2021年
出張講義「薬学部における生体リズム研究」を石井君の母校
茨城県立緑岡高校で行いました。
【我々の研究】生命にとって時間とは何か?を研究目標として研究をおこない、生命とは何かに答えを見出す。
【生体リズムを研究している日本国内の研究室はコチラ】生体リズムに関するスペシャリストです。
【時間生物学用語集はコチラ】
時間生物学では特殊な専門用語が多数でてきます。サーカディアンタイム(circadian time: CT) とツァイトゲーバータイム(Zeitgeber Time: ZT) などを知らないと生体リズムは理解できません。我々がよく使っている体内時計という単語は、約24時間周期を作り出す生物時計(時刻はCTにより表す)のことをいい(地球上の時間も24時間周期で動いている)、数時間の短い時間や数十時間の長い時間は、本来の体内時計は作り出せません。アナログ時計やデジタル時計のような数時間、数秒の時刻は、生物時計でも違う考え方が必要になります。
面白いことに体内時計は地球上の24時間周期には自分の時計を合わすことができますが、20時間周期や28時間周期には時計を合わすことができません。体内時計は 24 時間 ± 2~3時間の周期にしか時計を合わすことができません。もし地球が今から20時間周期あるいは28時間周期で自転したとしたら、我々は地球上の昼と夜を無視して約24時間周期で寝たり起きたりを繰り返し生活します。その環境のもと(20時間周期あるいは28時間周期)、我々の体は 遺伝子レベルで24時間リズムを作り出し、人は無意識のまま約24時間サイクルで寝たり起きたりを一生死ぬまで繰り返します(野生の動物はおそらくプレデターに捕食され生存できない)。
時計遺伝子が「本能の遺伝子」と呼ばれる由縁です。
我々は以上のことをマウスを使用した研究で明らかにしました。そして時計遺伝子に変異があるマウスで体内時計が28時間周期で動くようにすると24時間周期から32時間周期まで自分の時計を合わすことができることを証明しました。このことは将来、地球以外の惑星、火星など惑星の自転周期が24時間ではない惑星に定住するときに遺伝的に固定されている体内時計周期を環境に合わせる時に役立つと思われます。
【論文】Ryuta Udo , Toshiyuki Hamada et al., The role of Clock in the plasticity of circadian entrainment . Biochem Biophys Res Commun, 318(4):893-898. 2004.
【普段より1時間早く起きるということはどれくらい体に負担がかかるのか?】
生体リズムを知っていれば体にいかに影響を与えるかわかります。たった1時間という感覚のもと、外見上はまったく変わらないので、多くのヒトは自分の体の変化に気がつかない。多くのヒトはコミニィティー社会の中で一生を過ごす。そこで自分の体内時計を社会に合わせることが必要になってきます。社会の時間と自分の体内時計とのずれ(ずれから感じる体調不調)をソーシャルジェットラグという。代表的な例として金曜日に夜更かしし土曜日、日曜日朝遅く起きると、体内時計は少なくとも30分は遅れる。大抵の場合、夜遅くまで部屋の電気を浴び、携帯やパソコンをみたり、食べ物を食べ、コーヒーを飲むかもしれない。そうなると体内時計は数時間レベルで大幅に遅れる。夜間スポーツジムで運動するのも同様で、自ら体のリズムを乱しにいってるようで健康になるどころか逆効果の時もありうる。以上のことで、月曜日は体調がすぐれない。海外旅行などで日本と時差が13時間ほどあるニューヨークに移動したときも同様である。時差ぼけ・ジェットラグである。交代勤務等の夜勤も同様。
本来体を休める夜間に食事をしたり、光を浴びたりすることが体に悪影響を及ぼす。
ヒトは本能に逆らって生活できることから眠くても強制的に朝起き、仕事などの活動をすることができる。この点が社会生活をするヒトの疾患発症トリガーになりうる。しかし動物の場合、本能のままに起き、本能のままに寝る動物類はヒトと比較して疾患発症トリガーとしては低いと思われる。寝たいときに眠むり、食べたいときに食べるためである。近年、研究によく使用される研究用マウスは、ヒトでいうと睡眠障害である。マウスはあまり深い眠りにはならない。眠りが浅く、寝たり起きたりを頻繁に繰り返す動物である。すなわち好きな時に起き、好きな時に食べ物を食べる。そしてメラトニンを合成できない(DBAマウスを除く)。しかしながら行動リズムは夜間活動量が多くなり、活動を始める時間が体内時計により正確に決定されている。体内時計もしっかりと約24時間を刻んでいる。睡眠そのものと体内時計とは別物であることをはっきり示している。体内時計は社会生活をする生物に健康上、重大な影響をおよぼすと考えらます。
24時間眠らない現代社会では現実的ではないがヒトは自然とともに生活をする 日がのぼると活動・食事し、沈むと寝るのがベストだと思われる。しかしながら、こちらは自然の影響をダイレクトに受ける。日長時間が極端に短くなると精神疾患誘発(冬季うつ病など)されやすくなる。コミニティーによる社会生活がなければ体内時計がないほうがいいのかもしれません。
今年東京オリンピックを開催するにあたり、日本の社会時間をずらすサマータイムを導入する話がありました。今回は2時間も時刻を早めるとのことで、経済上は効果がでるかもしれませんが、ヒトの体に対しては大いに問題ありということを日本時間生物学会は、「サマータイムタイム導入に反対する」という声明を日本政府に対して出しています。詳しくはコチラ その中で1時間早く起きることの体に対する影響について簡単に述べています。
自分の体のリズムを状況に応じて適切に機能させ、社会生活を順調に健康的に過ごすためにも、体内時計を基盤とした生体リズムの基礎知識は重要だと思われます。
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