研究概要

 当研究室は、独自に開発した長期間遺伝子発現追跡定量技術を用いて、様々な生命現象・疾患発症メカニズムを解明し、薬学治療への貢献を目指しています。


 当研究室の長期間遺伝子発現追跡定量技術は、自由行動下マウスにおいて複数組織の遺伝子発現の定量を一斉にリアルタイムで解析することが出来るものです。これは生きているマウスの細胞を光らせる生物発光イメージングと自由に動き回るマウスの動体追跡技術を融合させたものです。3次元空間内での発光量補正技術を確立したことにより、長期間の定量化が可能になりました。従来の技術での3次元で追跡定量すること自体が困難な事だったのは、自由行動下のマウスの動きは予測不能でカメラの受光感度が発光標的組織からの距離と角度が常に変化するということと、カメラは広範囲を捉えることは出来ても、受光量が距離の2乗に反比例するので空間内で光量の補正が必要だったということが挙げられます。当研究室は、それらの問題を解決すべく、カメラのステレオ撮影とパターンマッチング法を組み合わせた遺伝子発現追跡定量システムの技術(DuFT)を開発し、標的部位の発光を自動認識・自動追跡することに成功しました(Hamada et al., Nat Commun. 2016)。


 生物発光イメージングに用いたトランスジェニック動物は、発現量に概日(24時間)周期があるPer-1遺伝子の下流にルシフェラーゼを繋いだマウスです。当システムによって、この1個体の各組織でPer-1遺伝子が長期間で概日周期での発現周期を自動定量化することに成功しました。


 Per-1遺伝子は、その発現に概日周期を持つ体内時計遺伝子の1つです。体内時計は、生物が地球の概日周期の環境に適応すべく進化の過程で得られた機能と考えられています。体内時計を司る体内時計遺伝子は複数あり、その複雑な制御機構が全身の1日の生理・行動リズムを生み出しています。夜更かしや夜中にスマートホンを使いすぎて、次の日 ダルイといった経験は誰にでもある事でしょう。これは一日を刻むのに重要な体内時計が一時的に乱れたことによるものと考えられます。これまでの研究で、夜間勤務や不規則勤務の人は昼間勤務の人に比べガンや心臓病などの罹患率が高いことが分かっていますがその発症メカニズムは全く分かっていません。当研究室では、開発した長期間遺伝子発現追跡定量技術を用いて、体内時計の乱れが引き起こす疾患発症機構を明らかしたいと考えています。また、疾患によっては1日の中で発症しやすい時間帯があったり、薬によっては効果が出やすい時間帯や副作用が出やすい時間帯があったりすることが分かっていますので、それらの作用機序についても明らかにしたいと考えています。生体深部の遺伝子発現解析において、現在CCDカメラで検出限界以下の発光を検出すべく2種類の組織密着型センサーを開発中です。


DuFT と組織密着型センサーを融合することで自由行動している生物のあらゆる部位の遺伝子発現定量解析と行動などの表現系とのリアルタイム同時計測が可能となり、我々の技術は生体機能解析から様々な疾患発症機構解明、治療薬開発と応用範囲は限りなく広いと思っております。現在 体内時計の乱れが関与する疾患睡眠障害、乳癌、糖尿病の疾患発症機構および極めて初期段階の疾患同定法について上記計測方法を用いて研究を行っております。