TCS - In Vivo detection in deep area
組織密着型センサーシステム (上写真)
各独立した飼育ボックスでμPMTおよび光ファイバーをもちいた生体深部の遺伝子発現を自由行動マウスやラットで長期間計測する。脳深部および内臓での遺伝子発現解析および癌などの極めて初期形成段階の検出・解析が可能である。マウスやラットの自発行動量も同時に計測することで動物に過度なストレスなく組織密着型センサーが取り付けられているのを確認すると同時に遺伝子発現から行動解析まで一連の解析が可能になります。また脳波計測や電気生理学的計測、オプトジェネティクスをもちいた方法との同時計測も可能なため、さまざまな生体機能解析が可能です。
組織密着型センサーをもちいたPMT計測のみでは既製品に飼育ケージに取り付けるだけなので 計測スペースを考量する必要が無く より便利性がありコストパフォーマンスも優れています。
行動リズム計測システム (上写真)
各独立した飼育ボックスで自由行動しているマウスやラットの生体深部遺伝子発現を長期間計測すると同時に赤外線センサーをもちいた自由行動リズム解析を Chronobiology System (Stanford Software Systems) をもちいて行う。
行動リズム計測例(上写真)
各独立した飼育ボックスで自由行動しているマウスの行動を赤外線センサーをもちいて Chronobiology System (Stanford Software Systems) で計測。マウスの動きの変化(加速度変化)を計測するため大きく動いた時にカウントされるようにセットする。マウスが覚醒していても小さな動きは無視されるため赤外線センサーによる行動リズムと睡眠覚醒リズムは同じではない。
組織密着型センサーとは
近年、血液中のヘモグロビンに発光吸収されることが少ないため生体深部の非侵襲性イメージングには適していると言われる近赤外線プローブの開発が進んでいます。しかしながら、生理学的条件下での計測となれば、自由行動しているマウスの生体深部の遺伝子発現定量は、骨や臓器による発光波長の吸収やカメラへの角度や距離などを考慮しなければならず正確性に欠けます。ましてや周期的遺伝子発現の測定のためには、低い発光と高い発光を捉えなければならないため現在の技術では生体深部(脳深部、内臓など)の遺伝子発現を長期間安定してCCDカメラで定量するには無理があります。1細胞レベルでの遺伝子が発現している確認や特定組織に発現している確認などでは可能かもしれません。しかしながら自由に行動しているマウスの生体深部の遺伝子発現を長期間定量するのは現在のところ不可能です。そこで我々は生体深部の遺伝子発現量を安定して長期間 低侵襲の方法で計測する組織密着型センサーを開発しました。組織密着型センサーは光子を直接計測するため、自由行動下マウスにおいての定量化測定の最大の弱点であるカメラと標的の距離やカメラの角度による光感度を考慮する必要がありません。組織密着型センサーはμPMTシステムと光ファイバーシステムの2つを開発しております。これら2つのセンサーは組織密着型であり、組織を傷つけることなく自由行動条件下、遺伝子発現の長期定量が可能です。μPMTシステムは世界で最も小さいPMTを用いてEM-CCDカメラでは検出限界の光を検知し遺伝子発現を定量します。光ファイバーシステムは光ファイバー先端を特殊加工しファイバー末端を小型PMTに接続し遺伝子発現を定量します。現在マルチバンドの光ファイバーによるイメージングシステムがありますがファイバーが束になっているため固く、マウスに取り付けた場合 マウスの行動を著しく拘束し、この状態で長期間計測することはよくありません。以上2つの組織密着型センサーはEM-CCDカメラでの計測と比較すると検出感度が格段にあがるため生体内での極少数の癌細胞を検出できることが期待されます。そこで我々は環境によるストレスなどによる癌発症機構解明および極めて極初期段階の癌を検出するシステム構築を目指し研究しています。
上記イラストでは脳最深部である視床下部奥低にある体内時計中枢:視交叉上核(Suprachiasmatic nucleus: SCN) 、脳深部部位である嗅球の中心部位、生体深部である肝臓における同時計測例を示しています。
光ファイバー システム
下図のように自由行動しているマウスの行動に影響せず、長期間リアルタイムに組織特異的に複数部位の遺伝子発現リズムを計測し、生体リズムを解析するシステムである。
【これまでの研究:EM-CCDカメラによる生体リズム解析】
海外旅行で経験する時差ぼけに代表される急激な環境変化がもたらす体調不良は、体の各組織の時刻が現地の時刻に同調する速度が異なるために生じると考えられているが、その機構は不明である。そこで、まず我々はDuFTシステム(2台のEM-CCDカメラのステレオ撮影)による動体追跡技術をもちいて、マウスの外環境の急速な変化が、各組織の体内時計(Per1 遺伝子発現リズム)にどのように影響を及ぼすか調べた。Per1 遺伝子発光は、嗅球・左右の大脳皮質・左右の耳組織・背中皮膚の6部位を計測した。Per1 遺伝子発光は、全ての組織において行動リズムの活動開始時刻付近に発現ピークを示した。夜間の8時間光照射は、動物の行動リズムを急速に約5時間遅らせた。上記6部位のPer1遺伝子発現リズムが光照射前後でどのように変化するかを測定した。嗅球は外環境変化に迅速に反応し、他の5部位は光照射後、一過的に発現リズムが乱れ嗅球組織に1日遅れて外環境に適応することが明らかになった。この結果は、生体内において各組織のリズムが乱れる過程を世界で初めて可視化することに成功したことを示している。生体リズムの長期的な乱れは、糖尿病・睡眠障害・癌など様々な疾患発症と関連することが示唆されている。
【組織密着型センサーによる生体リズム解析】
上記EM-CCDカメラをもちいての解析(画像からの長期的解析)の欠点として、自由行動マウス生体各組織の遺伝子発現をリアルタイムに可視化定量するときに無限焦点距離としてマイクロレンズを用いた場合ターゲットまでの距離が30cm以上必要となるため、個々の細胞の遺伝子発現を計測することはできずある範囲の細胞群の遺伝子発現を発光計測することになる。ターゲット組織とカメラまでの距離が長くなるため検出感度が落ちる(発光量検出は距離の2乗に反比例する)。体内時計の研究ではリアルタイム計測を数週間から数カ月計測するため、膨大な容量の画像データを取得しなければならない。MouseTracker (DuFTsystem)をもちいての解析で遺伝子発現量を定量するにもコンピューターの負担が大きくなる。EM-CCDカメラの値段も高く、10台のEM-CCDカメラでマウス5匹のデータをとるのも現実的ではない。非常に微量な遺伝子発現や微弱な変化率を計測するには計測ケージも光漏れが無い立派なものを作製しないといけない。EM-CCDカメラを設置した計測ケージシステムはスペースを大きくとり、場所のスペースを確保しなければならないなど多数ある。
シンプルに生体リズムの乱れを計測し、疾患との関連を調べたいのなら、よりシンプルな実験系で生体リズムの乱れから疾患が発症し、生体にどのような影響を及ぼすか調べるがよく、適している実験系としては、画像データよりもPMTをもちいた定量系の方が優れており、同時に多数のマウスの解析が可能である。PMTだけの定量システムであれば実験スペースのことを考える必要が無く、非常にコンパクトでマウスケージが入り、赤外線センサーを設置できるスペースさえあれば十分である。コストパフォーマンスが画像データ実験系と比較すると格段に良い。そこで我々は、数十匹のマウスの計測が可能である以下のPMT計測システムの開発を試みた。
我々は、生体深部組織のPer1遺伝子発現を長期間リアルタイムで計測することで、どの時期にどれくらい発現リズムが乱れた時に疾患発症の引き金となるか予測できると考えている。そこで生体深部の遺伝子発現をリアルタイムで計測する携帯型光量計測器(Portable optical detection device: POD)システムを開発し、末梢組織特異的計測に組織密着センサー(Tissue Contact Sensor:TCS)を開発した。組織を密着させるため、組織を傷つけることなく計測でき、かつターゲット部位までの距離がほぼゼロに近いため、非常に高感度に遺伝子発現を計測できる。現在 糖尿病発症過程の極めて初期段階を時計遺伝子発現リズムの乱れから同定し、新規治療法、予防法の確立をめざしています。また覚せい剤長期服用が体内時計機構を乱し、生体機能に及ぼす影響を調べています。
上記 組織密着型センサーの写真は μPMTシステムとEM-CCDカメラの同時計測用特殊ケージを示しているため ある程度のスペースをとるが、組織密着型センサーだけでの計測では通常の飼育ケージのみのスペースで良いため場所をとらない。
EBRS Lyon 2019 (2019年) 第26回日本時間生物学会(2019年)日本薬学会第140回年会(2020年)日本薬学会関東支部会(2020年)日本薬理学会第94回年会 などで成果発表
Hamada K et al., The analysis of Period1 gene expression in vivo and in vitro using a micro PMTsystem
Biochemical and Biophysical Research Communications, 577, 64-70, 2021
Kanou H, Nagasawa K et al., Period1 gene expression in the olfactory bulb and liver of freely moving streptozotocin-treated diabetic mouse
Biochemical and Biophysical Research Communications, 260, 14-20, 2021
Nakajima K., Stability of D-luciferin for bioluminescence to detect gene expression in freely moving mice for long duration.
The Journal of Biological and Chemical Luminescence, vol.36(1): p94-98, 2021
Hamada K, Oota A. et al., Double recording system of Period1 gene expression rhythm in the olfactory bulb and liver in freely moving mouse.
Biochemical and Biophysical Research Communications, 529, 898-903, 2020.
Ito R, Hamada K et al, Mouse period1 gene expression recording from olfactory bulb under free moving conditions with a portable optic fiber device
The Journal of Biological and Chemical Luminescence, vol.35(8):pp1248-1253, 2020.