DuFT

DuFT (Dual-Focal 3D Tracing)

 DuFTとは、2台のカメラによるステレオ撮影とパターンマッチングを組み合わせ、3次元座標(X、Y、Z)をリアルタイム追跡することが出来る技術です。3次元座標の位置に応じて発光量の補正SICT(signal-intensity calibration technique)を行うことで、リアルタイムで自由行動下の可視化マウスの生体各組織のターゲット部位を3次元追跡し発光定量を計測出来ます。時計遺伝子可視化マウスを用いた生体各組織の時計遺伝子発現リズムを長期間連続追跡定量した実験結果を Nature communications (Hamada et al 2016) に発表しました (北海道大学大学院医学研究科光バイオイメージング部門、時間生理学分野、放射線医学分野、保健科学研究院との共同研究)。


  


 DuFTの制御プログラム は、放射線癌治療において使用されているReal-time tumor-tracking radiotherapy (RTRT) プログラムを基にしています。RTRTとは、DuFTを共同開発した北海道大学放射線科学分野により開発された技術です。放射線治療のターゲットの腫瘍が体幹部に存在している場合、その腫瘍は呼吸にあわせて移動しますので単なる放射線照射しても効果が薄いのですが、このRTRT技術を用いればその腫瘍の動きを約1㎜の精度で追跡できるので、正確にターゲット部位放射線照射治療することができます。詳細はこちらをご覧ください。DuFTもまた測定ケージ内を自由に動いているマウスの遺伝子発現(発光している部位)をしているターゲット部位の位置同定誤差を±0.2mm以内の精度で追跡しすることができます。また、3次元空間でのターゲット部位の座標(X,Y,Z)を0.5 秒毎に計測し随時発光量の補正を行い定量化しています。


DuFT system

 DuFT とSICT の技術を融合し遺伝子発現を随時発光計測出来る測定システムです。現在では株式会社ナカムラサービスとメテオ株式会社により製品化されています。詳細はコチラ(3D遺伝子発現解析装置として紹介されています)をご覧ください。


DuFTsystem の原理

DuFT systemは 以下の4つのステップから形成されます。

 1.3次元空間での空間座標(X,Y,Z)の決定 

トランスホーメンションマトリックスによる2次元座標から3次元座標への変換 

キューブと呼ばれる立方体の隅の8点を既知の座標として決定し、それぞれのキューブの8点のポイント(ターゲット)を2台のCCDカメラでステレオ撮影する。左右のCCDカメラからの画像のキューブのそれぞれの2次元座標R(Rx,Ry) (右のCCDカメラから)とターゲット(X,、Y、Z)を通る直線ax+by+cz+d=0と 2次元座標L(Lx,Ly)(左のCCDカメラから)とターゲット(X,、Y、Z)を通る直線ax+by+cz+d=0の2つの直線を既知の8点の座標から計算する。2つの直線が交わるポイントは3次元空間内において1箇所だけであり、この座標(2つの直線の交点)がターゲットの3次元座標である。これはマトリックス関数で導き出せ 3次元空間内にあるターゲットを撮影したCCDカメラ左右の画像の2次元座標からターゲットの3次元座標に変換するトランスホーメンションマトリックス値を得ることが出来る。

 2.パターンマッチング法によるマウス生体各組織の3次元座標(組織の中心座標)の決定:DuFT

自由に行動するマウスの3次元座標マーカーとしてシンチレーター(プラスチック)をマウスに取り付け使用します。プラスチックシンチレーターはLEDライトに反応して蛍光を発する。頭部と体の各組織の3次元座標(X,Y,Z)を得るために頭部に3点(直径1.5mmの半円形のもの3点)および背中に3点(直径2.0mmの半円形のもの3点)のシンチレーターをとりつける。それぞれのシンチレーターの3次元座標をパターンマッチング手法をもちいてトランスホーメンションマトリックスから計算する。頭部の各組織の3次元座標の計算方法の例を下図に示す。脳内嗅球の3次元座標は頭部3つのシンチレーターから形成される三角形のセントロイドあたりに設定することでパターンマッチング手法で嗅球の3次元座標を計算することができる。左右の大脳皮質や左右の耳のそれぞれの3次元座標も下図に示すパターンマッチング手法で同様に計算できる。背中皮膚の3次元座標は背中に3つのシンチレーターから形成される三角形の底辺の中点あたりに設定し、パターンマッチング手法で3次元座標が計算される。この3次元座標を連続的に追跡計測する技術をDuFTと我々は名づけています。

3.3次元空間での発光量補正: SCIT

自由に予測不能に行動するマウスの生体各組織のターゲット部位の3次元座標が上記の方法で0.5秒毎に計算される。3次元空間内での発光体のキャリブレーションは3次元空間内に安定して発光する物体を605ポイント設置し、3次元空間内での左右のCCDカメラが捉える発光量の3次元空間変化率を求める(キャリブレーション)。このキャリブレーションをSCITと我々は名づけています(SCITの項目参照)。

4.自由行動マウスの各組織の遺伝子発現追跡定量 DuFT とSCITの連結

マウスターゲット部位の3次元座標に基づいて、位置に応じた発光量の補正を行うことで発光量の定量が可能となります。DuFTsystemはDuFTとSCITを連結させ 自由行動マウスの生体各組織の遺伝子発現を定量するシステムです。0.5秒毎に各組織の遺伝子発現を計測し、長期間複数組織の遺伝子発現を同時計測します。



SICT(signal-intensity calibration technique)

EM-CCDカメラ にマクロレンズを取り付け生物発光・蛍光サンプルをみるときに一般的に Vignetting (口径食)とDistortion (歪み)が問題になります。我々が用いているEM-CCDカメラはC9100-13 ImagEM (浜松ホトニクス)であり、非常に微弱な検出限界あたりの生物発光を検出するには最もすぐれたCCDカメラであります。マクロレンズを装着し焦点距離を長くした撮影であるケージ内を自由に行動しているマウスの体全体の遺伝子発現撮影を行う場合、体各組織から微弱な遺伝子発現を連続的に追跡定量するには3次元空間内で発光量を補正することが必要になります。EM-CCDカメラ本体での撮影した画像の輝度値を均一にする補正であるFlat Field Correction も考慮することも考えられますが、以下のことから無視できると考えております。- 80度に冷却したC9100-13 ImagEM ではダークノイズは無視でき、読み出しノイズも0-255 intensity 範囲の中では40あたりで無視できます。ピクセル間の感度補正はEMゲインのムラがあるため調整は不可能でありますがターゲットとなる発光体の明るさが上記ばらつきを無視できるほどの明るさを持っていれば検出定量可能となります。

現実的にケージ内を自由に動いているマウスのターゲット部位(組織)の発光量(生物発光)を定量するときには - 80度に冷却したC9100-13 ImagEM CCDカメラで感知した発光量を Vignetting とDistortion を考慮し、3次元空間内でのターゲットの位置に応じて(CCDカメラからの距離に応じて)発光量の補正をすることで定量が可能になります。

我々の使用しているレンズは最大像高8mm (像寸法16mmに相当)であり、C9100-13 ImagEM CCDカメラの画素サイズは11.6mm (縦8.192mm、横8.192mm)であることから最大像高72.5% まで撮影することができます。この場合カメラから垂直にターゲット物体を撮影した場合、 Distortion は画像の中心から一番遠い4隅において -2.5% になり樽型の歪みをもつことが計算できます。Vignetting はレンズのデータシートから計算すると63% になり、画像の中心から一番遠い4つの端では明るさが37%低くなります。実際、発光安定体をもちいて計測すると画像の4隅は中心から40% 暗くなることを確認しています。レンズの光透過率は420nmでは80%,500nm~600nmでは約90%(400-700nmの範囲においてfirefly luciferaseとenhanced beetle luciferaseによる生物発光の光はそれぞれ、89%、90%通過する)であり、カメラに光が入射します。さらにEM-CCDカメラが感知する光量はターゲット部位とカメラの距離に反比例します。このような特性をもつマクロレンズをもちいて2台のEM-CCDカメラによるステレオ撮影した画像からターゲットの3次元座標(X,Y,Z)を0.5 秒毎に上記DuFTにより計算し、3次元空間内でのターゲットの位置に応じた発光量補正を行い発光量を連続的に定量し遺伝子発現量を計算します。我々はこの発光量補正技術をSICT(signal-intensity calibration technique)と名付けました。



DuFTsystem をもちいた遺伝子発現解析例

DuFTsystem による時計遺伝子発現解析があります。時計遺伝子の中でもPeriod1(Per1) と Brain and Muscle Arnt-like1 (Bmal1) の遺伝子発現の追跡定量を行いました。Per1遺伝子プロモーターにfirefly luciferase (luc) を連結したものをもつPer1-luc マウスとBmal1遺伝子プロモーターにenhanced beetle luciferaseEluc) プロモーターを連結したものをもつBmal1-luc マウスをもちいて各組織の時計遺伝子発現リズムを解析しました。3次元空間内でのマウスの位置マーカーとして非常に微弱なLEDライト(マウスケージ床において0.01 lux 以下)に反応するプラスチックシンチレーターをもちいて直径1.5mm と直径2.0mmの半円形のものを独自に作製しマウスの頭に3点(直径1.5mmのもの)、背中に3点(直径2.0mmのもの)とりつけ、自由行動マウスの各組織の時計遺伝子発現リズムをDuFTsystemでプラスチックシンチレーターからの蛍光シグナルと時計遺伝子発現を示す luc、Eluc の生物発光シグナルを同時計測することで解析しました。このDuFTsystem をもちいた計測では、我々はフィルターを用いていません。プラスチックシンチレーターからの蛍光と時計遺伝子発現を示す luc、Eluc からの生物発光の最大励起波長はそれぞれ 425nm, 562nm, 540nm であり、プラスチックシンチレーターとlucのスペクトルのオーバラップはほとんど無く(0.1%以下)、プラスチックシンチレーターとEluc では40nm 以下であるためです。

マクロレンズを介してCCDに入ってくる光は、その後画像化されますが、CCDカメラ(C9100-13 ImagEM) の量子変換率を考慮する必要があります。CCDカメラの量子交換率は400nm~450nmの青色光あたりでは低いため感度が悪く、500nm~600nmあたりでは量子交換率が約90%で最も感度が高くなります。プラスチックシンチレーターからの蛍光シグナルと時計遺伝子発現を示すluc, Eluc からの発光シグナルの同時計測をするにあたり、プラスチックシンチレーターからの蛍光が低く抑えられ、時計遺伝子発現を示すluc, Eluc からの発光シグナルを検出する理想的な計測が可能となり、DuFTsystemはシンプルで長期間安定して遺伝子発現追跡定量できる特徴を持ちます。

下図にプラスチックシンチレーターからの蛍光と時計遺伝子発現を示す luc、Eluc の生物発光スペクトルを示しました。プラスチックシンチレーターからの蛍光と luc、Eluc の生物発光シグナルの最大励起波長での intensity をそれぞれ1として計算しています。



「体のリズムの乱れ」をリアルタイムで可視化することに成功

我々はDuFTsystem をもちいて世界で初めて個体レベルで「体のリズムの乱れ」をリアルタイムで可視化することに成功し、体の健康状態の基準化を確立した。夜間に8時間の光刺激をマウスに行うとマウスの行動リズムの開始は翌日には約5時間ほど遅れる(体内時計の位相後退)。この急激に体内時計が5時間遅れるような処置(人工的時差ボケ処置)をした時に体の各組織のリズムはどのようになるか調べ、脳内嗅球の活動リズムは行動リズムと同様すぐに5時間の位相後退を示したが、左右の大脳皮質、左右の耳、背中皮膚の活動リズムは一旦乱れ、嗅球と1日遅れて位相後退を示した(下図)。この現象は生体内脱同調と呼ばれ、海外旅行で体験する時差ぼけを惹起する原因である。この現象が長期に続くとシフトワーカーで発症する体内時計関連疾患である睡眠障害、乳癌、前立線癌、糖尿病を誘発する確立が上がる。DuFTsystemをもちいることでさまざまな疾患の発症機構の極めて初期段階をとらえることが可能であり、疾患発症機構解明および治療薬開発に大きく貢献できると期待できる。