In vivo イメージング/SCN研究を始める前に
【時間年齢軸研究】
「生命は、個体の中で時間/年齢軸に沿って極めてダイナミックで精巧な制御のもとに生起する反応ネットワークの総体である」
我々は生体の時間/年齢軸の精巧な制御システムを明らかにし、一生の間(時間/年齢)で健康な体がいかに維持され、システムのどの箇所が一生のどの年齢で破綻した時に疾患が発症するか解明する研究を行っています
(ヒトの一生のメカニズムの解明)。
PI 浜田のこれまでの時間/年齢軸に関する研究
1. 九州大学薬学部 日本学術振興会特別研究員(大学院博士課程):
哺乳類体内時計中枢 視交叉上核(SCN) の組織培養法を確立し、薬理学的手法をもちいてSCN単一神経放電リズム、2-DG取り込みリズムを計測。薬物がSCNに直接作用し位相変化するメカニズムに関する研究に従事。SCNの神経活動リズムを動かすには2つの経路があることを明らかにした。
(九州大学薬学部 渡辺繁紀教授・柴田重信教授の研究室での研究)
2.通商産業省 工業技術院 生命工学技術研究所 日本科学技術特別研究員:
体内時計中枢 SCN の光同調機構において光刺激を受けた視神経からglutamate が放出され SCN のglutamate 受容体活性化、そしてIP3 受容体の活性によるSCN 内カルシュウム 濃度変化の一連の過程が関与していることを明らかにした。
(通商産業省 工業技術院 生命工学技術研究所 石田直理雄博士の研究室での研究)
3.コロンビア大学 サイコロジーデパートメント 日本学術振興会海外特別研究員:
体内時計中枢 SCN には約1万個の神経細胞があるが、これまではSCN全ての神経細胞に時計遺伝子が発現あるいはサーカディアンリズムを持って発現すると考えられていた。浜田は、この常識を覆し SCN の全ての細胞に時計遺伝子が発現しないことを世界で初めて明らかにした。SCNでは時計遺伝子が発現している部位としていない部位が機能的に2つに分かれることで時計機構を形成していることを初めて明らかにした。
(コロンビア大学 日本学術振興会海外特別研究員 Rae Silver 教授の研究室での研究)
4. 早稲田大学 人間総合研究センタ- 助手:
哺乳類体内時計中枢 視交叉上核(SCN) の活動周期を変化させる薬物の作用機序および活動周期24時間より長くした時に生物はどれくらいの環境変動周期に体のリズムを適応できるかの研究を行った。
(早稲田大学 人間総合研究センタ- 柴田重信教授の研究室での研究)
5.経済産業省 産業技術総合研究所 年齢軸生命工学研究センター 研究職員:
血液凝固第IX 因子 (FIX) の発現量は年齢とともに増加し,血栓誘発の危険因子の一つとして作用します。この現象を使い,一生涯にわたる体の恒常性機構を制御する蛋白質の同定に成功しました。同定した蛋白質は血液凝固活性が年齢とともに上昇する機構に重要であることを明らかとし、老化や年齢に伴う疾患研究に新しい道を開く蛋白質の同定に成功した。
(経済産業省 産業技術総合研究所 年齢軸生命工学研究センター 研究職員 倉知幸徳センター長、倉知須美子
健康インフォマティクスチーム長のもとでの研究)
6. 北海道大学医学研究科 光バイオイメージング部門 特任講師/ 特任准教授:
自由に動いているマウスの複数の遺伝子発現リズムを連続測定するシステムの開発に成功し、体内時計遺伝子による健康状態の可視化技術を可能とした。
(北海道大学医学研究科 光バイオイメージング部門 本間研一教授、本間さと教授、石川正純教授、白土博樹教授の研究室での研究)
【In vivo イメージング】 現在の多くのイメージング試薬は使えない!
長期間の In vivo イメージング法の確立
6/1 2018 (by 浜田俊幸)
本研究室では主に自由に動いているマウスやラットの遺伝子発現を可視化あるいは定量化するためにルシフェリン・ルシフェラーゼ反応(LL反応)を利用しています。LL反応で発せられる生物発光(bioluminecence) は非常に微弱で検出には超高感度カメラあるいは光電子増倍管(photonmultiplier tub: PMT) で検出します。蛍光(Fluorescence) と比較すると非常に暗く検出は難しいですが、LL反応は酵素反応であるため、励起光を必要とせずバックグランドが低く抑えられ、定量性にすぐれています。特にマウスやラットなどの個体をもちいた in vivo イメージングによる遺伝子発現の可視化・定量にはシグナルの特異性にすぐれています。蛍光をもちいた in vivo イメージングでは非特異的なシグナルが非常に多く検出され、マウスやラットが食べた餌も光ってしまいます。そこで生体内遺伝子発現は特異性が高い生物発光をもちい、シグナルが非常に強い蛍光は、シンチレーターなど人工的なものをマウスやラットにとりつけ位置マーカーとして使用することで、発光と蛍光のダブルレコーディングで自由に動いているマウスやラットの遺伝子発現追跡定量を可能にしております。
体内時計研究では時計遺伝子の発現を長期間定量することが求められ、発現量に日内リズムが存在します。遺伝子発現が低い時ではバックグラント近くまで検出が落ちるときがあり、定量するにはバックグランドを低くすることが非常に大事になってきます。LL反応を利用したイメージングでは計測したい遺伝子にルシフェラーゼ遺伝子を連結したトランスジェニックマウスを作製することで遺伝子発現を可視化・定量することが可能になります。しかしながら シフェラーゼの基質であるルシフェリンを動物はつくれないため 体の外から投与しなければなりません。
ここで一般的に問題になってくるのがルシフェリンのような基質の性質です。現在 生物発光を惹起するさまざまなルシフェラーゼ系酵素やその他の酵素蛋白質とその基質類が多くあります。本研究室では主にホタルルシフェラーゼとD-ルシフェリンカリウムをもちいた in vivo イメージングを行なっています。理由として長期間の in vivo イメージングにおいて生物発光強度が強く、安定しているためです。ホタルルシフェラーゼ・D-ルシフェリン系よりも発光強度が強いと市販されている試薬もさまざまありますが、長期間の遺伝子発現量の変化を調べるにはほとんど使い物になりません。D-ルシフェリンカリウムは水溶性であり、取扱いが簡単でありマウスやラットに投与するにあたり腹腔内投与や皮下投与で簡単に血液中に入り、全身にD-ルシフェリンが広がり、個体レベルの全身での遺伝子発現イメージングが可能になります。D-ルシフェリンカリウムとは違い脂溶性が高い基質は、長期間の in vivo イメージングではほとんど役に立ちません。全身に広がらないため個体レベルの全身で遺伝子発現イメージングができないためです。薬物の代謝を考えれば、水溶性薬物はスムーズに全身にひろがり、そして体外に排出されますが、脂溶性薬物は全身に広がらず、部位特異特異性もなく局所的にとどまり、水溶性薬物と比較し体外に排出されにくいため、発光シグナルの定量さえ問題になってきます。現段階では水溶性基質をもちいたin vivo イメージングが第一選択です。
水溶性基質のルシフェリンを投与する方法も問題になります。腹腔内投与、皮下投与、静脈内投与するにあたり、長期間の連続投与しなければならず、一回の注射による投与法とは違います。現在 生物発光をもちいた in vivoイメージングでは 基質を一回の注射で体内に注入し、すぐにイメージングが行う方法が多く用いられてます。本研究室ではこの方法を用いておりません。なぜなら基質を注射で体内に注入した後 30分は非常に血中濃度が不安定で、あり指数関数的に血中濃度は減少していきます。その間の生物発光強度の変化量は桁違いに変化していきます。そして個体の計測部位においてもその変化は違います。本研究室ではマウス嗅球や大脳皮質におけるin vivoイメージングでは投与後30分は生物発光強度の変化量は不安定であり少なくとも投与後1時間でないと さまざまな処置による遺伝子発現定量の効果を調べるべきではないという結果を得ています。そこで血中基質濃度が安定して定常状態になるよう 薬物注入ポンプをもちいてマウスやラットに基質を長期間投与してin vivoイメージングを行なっております。ポンプには Alzet 社の浸透圧ポンプやプライムテック社のマイクロポンプなどがあり、それらをもちいて長期間血中濃度を安定化し自由行動しているマウスの時計遺伝子発現リズムを計測しております。ただしD-ルシフェリンカリウムが安定だとしても ポンプでもちいるのは1週間程度にしています。これはD-ルシフェリンカリウムが L-ルシフェリンカリウム(光学異性体)に1週間以上すると変化していく量が増え、生物発光に影響するからです。室温で黄色の溶液であるD-ルシフェリンカリウムを机の上に置いておくと、2週間もすると茶色に変化することからも明らかです。本研究室ではマウスにAlzet 社の浸透圧ポンプをもちいてD-ルシフェリンカリウムを2週間投与し、血中ルシフェリン量をHPLCで計測したところ L-ルシフェリンカリウムが劇的に増加しているのを確認しております。 L-ルシフェリンの問題点はD-ルシフェリンとルシフェラーゼによる生物発光反応を阻害し、遺伝子発現を示す生物発光強度が弱められるところにあります。
以上、本研究室では長期間 生理学的条件化 自由に行動しているマウスの全身の遺伝子発現を可視化・定量するための発光基質投与方法を確立し、体表である嗅球や大脳皮質、小脳、皮膚だけでなく、脳深部や生体深部(癌組織など)や各臓器の遺伝子発現を長期間 定量する装置を開発しております。これらの薬物投与技術と計測機器による in vivoイメージングをもちいて 生命現象解明を目指し、研究を進めております。
SCN 研究を始める前に
【In vitro Slice culture】視交叉上核(SCN)組織培養
7/10 2018 (by 浜田俊幸)
哺乳動物の約24時間の睡眠覚醒リズム・行動リズムは脳内視床下部奥底にある視交叉上核 (suprachiasmatic nucleus: SCN) が24 時間周期の体内時計中枢を担っている (Stephan and Zucker,1972, Moore and Eicher,1972)。SCN は、脳内組織だけでなく内臓などの末梢組織においても時計遺伝子発現リズムを厳密に制御し、体全体に発現する時計遺伝子の発現リズムを制御している (King et al., 1997, Antoch et al., 1997, Tei et al., 1997, Sun et al., 1997)。その結果、体全体のリズム形成が維持され、最終的に約24時間周期の行動・睡眠覚醒リズムが出現する。
哺乳類時計遺伝子がクローニングされる以前、浜田が所属していた九州大学薬学部薬理学教室(九大薬理)では教室の助手であられた柴田先生(現早稲田大学先進理工学部教授)を中心にSCN組織培養 (in vitro) をもちいたSCNの体内時計機能析研究が活発に行われていた。薬物を投与して動物の体内時計に対する作用を行動リズムで調べる場合、2週間程の期間を必要とするが、組織培養(急性スライス)では数時間から2~3日で完了する。1982年 柴田先生らはSCNを含む視床下部切片(450um)を作製し、酸素を大量に含んだ培養栄養液中でSCNの単一神経放電活動に昼高く夜低いという昼夜リズムがin vitro の状態でも維持されることを発見した。SCN組織培養でのリズムの継続する報告は Gillete M, Groos and Hendrinks らの報告も同年の1982年に報告され、SCNを体外に取り出してもSCNの自立振動性が継続することが3つの異なる研究室により明らかにされSCNが約24時間のリズムを作り出す本体であることが証明された。
この組織培養法は現在光イメージングなどで汎用されている簡易組織培養とは違うものである。電気生理学で一般的に使用される急性スライス培養法は、動物個体in vivo での機能をそのままin vitro で解析できる意味での培養組織解析法であり、数時間から2~3日の計測に用いられる。組織切片の厚さを400~500 umで作製することでvivo での環境がある程度保たれていることでin vitro とin vivo の連携が考察できる。組織培養の条件を工夫することで2~3日の連続計測が可能である(当時は数時間の組織培養が行われ、1990年ごろに2~3日の長期間培養法が開発された。浜田の最初の研究テーマが SCNの急性スライスの長期間培養であり、2~3日の長期間培養法確立のため毎日数十枚のラットSCNの培養組織を作製したことを思い出すと同時にSCNの培養組織を作製した数では誰にも負けない自信がある)。柴田先生と九大薬理の劉先生(現小野薬品)は網膜からSCNへの光情報伝達を明らかにする目的で視神経を残し脳をSCNを完全に含む水平にカットする脳切片作製(SCN Horizontal Slice)法を世界に先駆けて確立した(Shibata et al., 1984)。この方法でSCNに入力する外界の光情報は左右の網膜からそれぞれ主に反対側のSCNの腹外測部に、少数の同側SCN腹外測部に入力し、その部位のSCN神経を興奮させ、視神経からその興奮性伝達物質がglutamate であることを証明した(Liou et al., 1986)。
一般的にSCNスライス作は一匹のマウスやラットから1個作製する(2個作製できるときもある)。固い視神経の束の真上にSCNが存在するためスライス作製機器であるびビブラトームやティシュチョッパーでうまく作製しないと組織がダメージを受けてしまう。SCNスライス作製と比較すると海馬や線条体スライス作製のほうが断然簡単である。虚血に脆弱である海馬や線条体の組織においても1匹のマウスやラットでは非常に多くのスライス組織が得られスライス培養は難しいものではない。むしろスライス組織の練習用としてフィールドポテンシャルやLTPが海馬や線条体スライスでできるようになってからSCNスライス組織を作製するのが近道である。
より長期的な組織培養法として組織回転培養法が海馬などの研究者らにより開発され、九大薬理の富永先生(現 大阪大学理学部准教授)らによりSCNの長期培養に応用された。富永先生は当時、博士課程学生として三菱化成生命研に柴田先生と共同研究されていた井上先生のもとに国内留学しSCN組織培養の手法を用いる解析で研究されていた。組織回転培養法では胎児の脳あるいは出生後数日のものからSCNを切り出しスライドガラス上で培養していくことから、実際vivo の個体のSCNと機能的解剖学的にどれくらい維持されているかが問題になる。SCN組織はスライドガラス上でほぼ2次元的に水平方向に成長していくため、3次元的ネットワークを維持している急性スライス培養法と比較し、ほぼ2次元的ネットワークの組織で個々の細胞が平べったくなる欠点とvivo 個体同様にSCNが成長していくのか?という疑問も残る。利点としては長期的な培養が可能であり、スライドガラス上でほぼ単層で組織が培養できるため解剖学的研究が非常にしやすいという利点を持つ。この回転培養法のより簡易的な組織培養法が現在 光イメージングなどでよく使用される静置培養法である。今まで組織切片を作製したことがない人でもすぐに組織培養ができる簡素なシステムである。回転培養法と同様 神経シナプス形成前の胎児あるいは生後すぐに組織切片を作製し、組織切片作製後 半気相状態で放置するだけであるため技術的なものは必要なく素人でも組織培養が簡単にできるが、作製した組織切片が安定するまで10日ほど必要であり個体レベルと同様な機能を組織切片が保持しているかは非常に問題である。この静置培養法の欠点は薬物投与実験に適さないという点である。薬物の効果を見る時は薬物の効果が容量依存的であり、かつ阻害薬で容量依存的に阻害され、薬物をwash out した時に組織の活動性がもとにもどるか示すことが必須条件である。静置培養法ではこのような薬理実験が困難であり使用目的が非常に限定される。In vivo 個体レベルと組織培養計測時のSCNの機能が同じかと言われれば限りなく同じではないといいたくなるところがある。現在の体内時計研究では静置培養法をもちいてシナプス形成後のアダルト動物から組織切片を作製しすぐに機能解析している研究が多いのが驚きであり問題である。さらに薬物投与し薬物効果から機能解析している研究も同様である。九大薬理では体内時計に対する薬物の効果を調べるためSCNの組織培養法を世界に先駆けて確立し解析し、2週間ほどの期間が必要な動物実験から2~3日で終わる組織培養法で大量の薬物研究を可能にしてきたが、そこには基本的な薬理の解析に基づいた解析と常に動物個体レベルとの機能が保たれているか考慮してきたところが組織から個体レベルの解析につながる解析を可能にしてきたところがある。単に作製したSCN組織切片だけを考え、そこで形成される周期性だけを考えるのであれば、その形成機構を解析するのに問題なく、基本原理であるモデルを考えるのもありである。現在の体内時計の研究はSCN組織培養の結果を強引に個体レベルにつなげる傾向があり無理があると思われる。そこで我々は個体レベルでの解析を立ち上げ、SCNからその他の脳部位、抹消組織、そしてそれらの行動などの表現系の解析さらに個体がSCNに影響を与えるシステム(老化など)を連結して解析できるIn vivo 解析システムを用いて生命とは何かという問いに答える研究にチャレンジしている。
【視交叉上核(SCN)研究1】
(時計遺伝子クローニング前)
10/30 2018 (by 浜田俊幸)
SCNは哺乳動物の体内時計中枢である。1972年にSCNが体全体の約24時間周期を作り出す中枢の可能性があると報告され、1979年に三菱化成生命研の井上先生らはin vivo 動物個体レベルで脳内視床下部奥底のSCNの周りをカットしSCNアイランドを作成し(SCNを含む視床下部あたりを周りの脳組織から切り離し、脳内で神経連絡を絶った状態にする)、SCN部位に電極を挿入しin vivo でSCNの電気活動をマルチユニットで計測する(SCN全体での電気活動)とSCNではきれいな約24時間周期の電気活動リズムが計測され、その他の脳部ではほとんど24時間の電気活動リズムが計測されないことを報告した(Inouye and Kawamura, 1979)。個体レベルでの隔離されたSCNの電気活動の周期性からSCNの体内時計中枢が大きく支持された。ただSCNは他の脳部位から神経連絡は絶たれているが液性因子の可能性があり、SCN以外に存在する体内時計中枢の中継点である可能性が否定できなかった。そのためSCNを体外に取り出し電気活動が継続できることを証明することがSCNが体内時計中枢であることを決定づける。前述したように1982年に柴田先生ら3つの異なる研究室からSCNスライス培養で約24時間の活動リズムが計測されたことが報告され、ほぼSCNが体内時計中枢であることが確定した。その後SCNを他の動物の脳に移植することで移植したSCNがその個体の活動リズムを制御することが報告され(Lehman, Silver et al., 1987, Ralph and Menaker.,1990)、SCNが体内時計中枢であることが確認された。
浜田が1990年に九大薬理研究室(九大薬理)に4年生で入った時にはSCNの体内時計中枢として確立していたがSCNがどのような機構で約24時間の活動リズムをつくりだすのか全く不明であった。当時睡眠薬や抗うつ薬、抗不安薬など日々摂取する薬物が体内時計に作用するとは思われていなかったが、うつ病や精神分裂病の薬理学的研究が研究室のメインテーマであった九大薬理ではこれらの薬物が体内時計に作用することを行動リズム解析で明らかにしていた。より詳細な機構を明らかにする目的でSCNの急性スライス培養法(数時間の培養)実験を浜田、富永先生(博士課程1年)、柴田先生と3人でチームを組み大量のSCNの急性スライスを作製し解析していた。ただ薬物が体内時計に作用し位相変化を惹起することを調べるにはSCNの急性スライス培養を2~3日培養する必要があった。当時SCNの急性スライス培養を2~3日培養する技術はアメリカ イリノイ大学 Gillete M の研究室のみ成功しており(Gillete and Prosser, 1988)、浜田の研究はまずこのSCNの急性スライス培養を2~3日培養しSCNに作用する薬物のスクリーニングをすることだった。富永先生はSCN内に高濃度に存在するペプチドの体内時計に対する役割を明らかにするプロジェクトのため井上先生の三菱化成生命研に博士課程の途中で国内留学され、SCNの回転培養法の確立をされた。浜田はSCNの急性スライス培養を確立しSCN細胞に作用する薬物(細胞表面上の受容体の活性化)は大きく2つに分類され、昼間特異的にSCNの神経活動を抑制し、体内時計の位相を前進させる薬物と夜間特異的にSCNの神経活動を興奮させ、体内時計の位相を後退および前進させる作用を持つタイプがあることが明らかにする研究に関わった。
SCN内の部位特異性の研究において、井上先生が中心になり三菱化成生命研で(当時としては珍しく多くのポスドクが集まり研究チームをつくる)、SCNに高濃度に部位特異的に存在するペプチドの機能を解明するプロジェクトを行っていた。ラットSCNには約1万個の神経細胞が存在するが、SCNに高濃度に存在するペプチドの解析ではラットSCNの背内測部(DM)に存在するバソプレッシン(VP)陽性細胞はVPmRNA, 蛋白質の発現リズムが恒暗条件下でも継続し、SCN腹外側部(VL)に存在するバソアクティブインテスティナルポリペプチド(VIP)陽性細胞はVIPmRNA,蛋白質の発現リズムが明暗条件下のみ発現し、恒暗条件下で消失することを井上先生らのグループが明らかにし、SCNの背内測部が体内時計の発振に重要な機構を持つと結論付けた(SSTもVLに近いDM部位に存在するが発現にサーカディアンリズムが存在する(Shinohara et al., 1991)。ただVPはSCNに高濃度に存在するが体内時計の発振機構には影響せず、重要な役割をもっていない。VIP受容体はマウスでは体内時計の発振に重要な役割をしていると報告があるがハムスターではSCNにVIP細胞は非常に少なく(ほとんど無いか数が少ない)、VIPが体内時計に重要な役割をしている可能性はまだクエスチョンである。その後SCNの細胞1つ1つをバラバラにして培養した時にSCNの電気活動にリズムがあるかどうかMEDという方法で調べSCNの個々の細胞の状態でも電気活動にサーカディアンリズムが継続することが報告された(Welsh and Reppert, 1995)。これまでにもSCN急性スライス培養の研究でSCN個々の細胞に電気活動リズム(単一神経放電活動リズム)があり、シナプス伝達をTTXで阻害しても影響されないことから予測はされていたが、SCN組織培養で考えられたGAPジャンクションなどを介した情報伝達機構の影響も排除された。電気活動リズムとペプチドの生成(mRNA, 蛋白質)リズムが独立した個々の細胞で形成されていることが明らかにされた。
当時 浜田はSCNの体内時計機構を動かす2つのタイプの薬物の詳細な機構を分生物学的に明らかにする目的で工業技術院生命研(現在の産業技術総合研究所)の石田先生のもとに大学院時代に国内留学し、分子生物学的なアプローチで研究していた。石田先生はいち早く体内時計の分野にディゴキシゲン(DIG)in situ ハイブリダイゼーションをもちいたmRNA発現解析を取り入れていた。そして京都大学の沼正作先生、本庶佑先生のもとで遺伝子クローニングされていた石田先生の研究室では哺乳類の時計遺伝子のクローニングおよび発現解析をされていた。浜田は分子生物学的研究で電気生理学を離れていたがMEDの技術を学ぶ機会がNSF支援の時間生物学研究の交換留学(アメリカと日本)で与えられ、バージニア大学時間生物研究所(NSF Center for Biological Timing)でMEDを取り入れていたGene Block研究室のGeusz MEのもとに短期留学した。MEDの技術はスライドガラス上にほぼ透明な電極と配線があり、その上で細胞を培養することで電気活動と解剖学的な研究を同時に行うことができる。アメリカテキサス大学で神経ネットワークを解析するプロジェクトで開発された。海馬の研究チームなどがスライドガラス上で細胞を培養、ネットワークを形成し、個々の細胞の電気活動を計測し、標的細胞をレーザーで破壊することでネットワークがどのように変化するか調べていた。スライドガラス上の透明な電極と配線の作製には日本のNTTやパナソニックが関わっていた(パナソニックのMEDが市販されるのはかなり後になってからである)。アメリカでは多くの研究者は、このスライドガラスを購入して自分のアンプや電気計測機器を連結し、MEDシステムをそれぞれ独自にシステムをつくり研究を展開していた。体内時計分野のSCN機能解析にMEDを取り入れることにいち早く成功したのが上記記載したReppertの研究室である(Welsh and Reppert, 1995)。バージニア大のGene Block研究室もテキサス大学からスライドガラスを購入しMEDシステムをSCN機能解析に応用しようとしていたが出遅れていた(浜田がバージニア大学に行った時にはGeusz MEのもとでHerzog EDがポスドクとしてWelshの博士論文を参考にしながらMEDのシステムを立ち上げていたのを思い出す。また浜田がバージニア大学に短期留学する前に富永先生がバージニア大学に留学され、SCNスライス培養法を教えており、その培養液が富永先生の名前からKeiko Buffer と呼ばれている)。当時はまだ哺乳類時計遺伝子がクローニングされておらず、個々のSCN細胞の神経活動リズムが遺伝子レベルで制御されているのではという考えが一段と強まった。そして1997年の哺乳類初の体内時計遺伝子Clock およびショウジョウバエのPeriod遺伝子ホモログ Period1の発見が発表され体内時計研究にブレークスルーがおこることになる。
1993年 第5回生物リズムに関する札幌シンポジウム
日本で開催される生物リズム・体内時計に関する国際シンポジウムとして権威のある札幌シンポジウム 1993年は生理学・薬理学研究でSCNの機能解析が盛んに研究されていた時期である。SCN研究で札幌シンポジウムに初めて参加した。
日本時間生物学会会誌 Vol.1 No.1 (1995)
Reppert の研究室がMEDシステムをもちいて単離したSCN 細胞から電気活動リズムがあることを発表した1995年に日本では日本時間生物学会会誌Vol.1 が発行される。日本での生物リズム研究の軸となる「生物リズム研究会」が1983年 国際クロノバイオロジー学会を立ち上げたミネソタ大学のHalberg教授からの働きで川崎晃一先生、高木 健太郎先生,川村浩先生らを中心に発足し、第1回生物リズム研究会が1984年に開催される。「生物リズム研究会」は第1回~第10回(1984年~1993年)10年の活動後、「生物リズム研究会」と「臨床時間生物学研究会」が併合し1994年に「日本時間生物学会」となりスタートする。Vol.1には東京都日本都市センターで開催された日本時間生物学会 第1回設立記念学術集会の抄録が記載されている。
2001年 Gordon Research Conferences
哺乳類時計遺伝子がクローニングされ、おそらく最も活発に体内時計研究が行われていた時のゴードンカンファレンスでの一枚。様々な研究分野の研究者が体内時計研究に参加していたときでもある。みんな若い!(ちなみに浜田はMaywoodの後ろ岡村先生の横にいる。写真のLeman の顔のところがかけてしまい申し訳ありません)
【視交叉上核(SCN)研究2】
11/30 2018 (by 浜田俊幸)
時計遺伝子とは、この遺伝子に変異がある場合、行動のリズムに影響を与える(表現型としては無周期、長周期、短周期のいずれかまたはすべてを示す)遺伝子のことである。この時計遺伝子の特徴の1つに、その遺伝子産物(mRNA または蛋白質)が約24時間周期でリズミックに生体内で発現することがある。ショウジョウバエにおいて時計遺伝子Period (2017年ノーベル生理学・医学賞)とTimelessがクローニングされ、その転写産物である蛋白質が どのように約24時間の周期リズムをつくりだすかを、Hardin PEはネガティブフィードバック機構を提唱し、体内時計の発振機構機構の基礎をつくりあげた。Hardin PEが提唱したネガティブフィードバック機構は時計遺伝子は蛋白質になり、核外から核内に入り自分自身の上流のE-boxに作用し自身の遺伝子転写を抑制するものだったが(いちはやくE-Boxの重要性を発表したのもHardin PEである)、問題が一つあった。PeriodとTimeless は2量体を形成し核内に入るがDNA結合部位が無かった。そのため第3の因子(蛋白質)があるのではとショウジョウバエ研究者は、その蛋白質を探していたが見つからずにいた。その時に(1997年)Takahashi JSらは哺乳類で初めての時計遺伝子であり、DNA結合能を有するClockを発見した。この Clockこそがショウジョウバエ研究者が探していた第3の蛋白質であり、その後、ショウジョウバエでも哺乳類Clock 遺伝子ホモログがあることが報告されネガティブフィードバック機構が証明される。同じ1997年にショウジョウバエPeriod遺伝子ホモログが哺乳類で2つの異なる研究室から発見した論文が出される(Tei et al., 1997, Sun et al., 1997)。Period遺伝子がショウジョウバエからげっ歯類、ヒトにまで存在することが明らかになった。
時計遺伝子が発見された後、1999年に浜田はアメリカコロンビア大学 Silver Rの研究室に日本学術振興会海外特別研究員として留学する。 Silver Rはコロンビア大学心理学教授、医学科教授、バーナードカレッジ教授と3つの部署の教授で解剖学と脳移植を軸に体内時計を研究していた(バーナードカレッジはコロンビア大学系列の女子大でマンハッタンンを南北に走るブロードウェイをはさんでコロンビア大学の真ん前にある。Silver Rはバーナードカレッジ教授が長かったが浜田が留学する前にコロンビア大学の教授にもなり、浜田がコロンビア大学Silver Lab ポスドク第1号であり、Silver Rの研究室に分子生物研究ができるようセットアップした)。以前薬理学的に明らかにしたSCNに作用する薬物が2タイプある理由とSCN内で作用機構解明および時計遺伝子との関連を研究テーマとした。まず動物をハムスターを選んだ。げっ歯類体内時計の研究ではハムスターがよく用いられる。行動リズムが非常にきれいであり、常暗条件下において非常に安定している点とSCNの解剖学的研究が非常にすぐれている点である。体内時計は約24時間の発振機構と外界明暗環境に適応する同調機構がある。ハムスターは視神経からの入力がSCNの主に腹外側部にあり、かつSCN内に高濃度に存在するペプチドの解剖学的分布が圧倒的にラット、マウスと比較し解剖学的にはっきりと区分される。薬理学的研究ではラットが用いられるがハムスターはラット同様 薬物に対する反応が良く安定しており同様に使用される。逆にマウスは薬理学研究では薬物反応が安定せず良くない。SCNの解剖学的解析ではマウスはハムスターやラットと比較すると視神経入力がSCN全体に広がっていること、SCN内に高濃度に存在するペプチドの分布がきれいでないなどの欠点がある。ハムスターSCNは解剖学的きれいさからSCN部位を区分する言葉としてコア部位とシェル部位とに分けて説明される(視神経入力部位ではっきり分かれる)。ラットSCNも視神経入力が比較的きれいであるがラットの場合 単にSCN腹外部, SCN背内側部という言葉になりSCNの内側か外側かのあいまいな表現になる(視神経入力の部位であるVIP陽性細胞はSCN腹外部のマーカー蛋白質であるが 視神経が連絡していないVIP細胞も多くあり、ハムスターが視神経入力でSCN部位を分ける定義に対してラットは厳密な定義はなく単に何の意味なくSCNを分けている)。マウスとなるとさらにいい加減になり ラットの研究からSCN腹外部, SCN背内側部と分けるが何の定義もない。
浜田はまずハムスターSCNの約1万個の神経細胞の時計遺伝子mRNA発現をDIG in situ 法で調べた。以前Reppert らによるMED研究でSCN個々の細胞に電気活動があることが証明されが、この研究の解釈をSCN1万個の細胞に電気活動リズムがあるとしたところもあった。当時のSCNの時計遺伝子発現(mRNA) は放射性物質を使用した in situ 法が主流で行われており、解釈としてSCN全細胞に時計遺伝子が発現しており、SCN全細胞が時計遺伝子発現にリズムがあると研究者らは論文に報告している。ところが浜田がDIG in situ でSCN各細胞を調べたところ、今までの常識を覆す「時計遺伝子は全てのSCN細胞に発現していないことを発見した」この発見の報告を 'Seventh Meeting Society for research on biological rhythms'( Florida, U.S.A. 2000) で発表した。論文として2001年に発表したが(Hamada et al., 2001) Seventh Meeting Society for research on biological rhythmsでの報告が最初の報告として 2001年の論文にも記載してあり認められている(Hamada et al., 2001) 。この発見にいたっては 「SCNの個々の細胞がネガティブフィードバック機構を有しており時計遺伝子が存在する」という感じで論文をこれまでに記載していた研究者からはいろいろと疑問の目をむけられたところもあった。特に解剖学研究者らは 「全てのSCNの個々の細胞がネガティブフィードバック機構を有しており時計遺伝子が存在する」「SCNの細胞の時計遺伝子Period は昼高く夜低い、夜間の光パルスがPeriod 遺伝子の発現を上昇させることにより発現量が昼間の量に近くなり時計機構が早まる」という記載で論文を発表している。まさにこれは時計遺伝子が全てのSCNの細胞にリズミックに発現し、発現量が低い時に光パルスにより発現量が上昇し、位相変化が起こるということを言っているのだが、これが間違っていた。そこで自分の結果とは全く異なるその位相変化機構のストーリーを間違っていると証明しなければない。そのため非常にクリアに時計遺伝子の発現の部位の違いを説明する必要があった。
【視交叉上核(SCN)研究3】
体内時計のゲート機構を持つ細胞の発見
12/26 2018 (by 浜田俊幸)
ハムスターSCNはペプチド分布や視神経入力部位などが非常にクリアに分けることができるためSCNの機能解析には最適である。浜田がコロンビア大に留学した1999年は時計遺伝子発現を用いた機能解析は放射性同位体プローブをもちいたmRNA発現解析で単にピーク時刻がどこかという発現リズム解析がマウスやラットで行われており、そのためSCNの解像度は関係なく組織切片の厚さは厚めの約 50μm で解析されていた。またSCNを前から後ろまで "全て" 解析するのではなくSCNの代表的なところを選択して解析するのがメインであった。この方法を用いては非常にSCNを区分できるハムスターの利点を使えないため、浜田は ディゴキシゲニン (Dig) in situ で、解像度を上げるため 20 μm の組織切片で SCNを前から後ろまで全て解析する方法で時計遺伝子発現解析を行った。前述したように Dig in situ でのSCN内 mRNA 発現は 通産省の工業技術院(現 産業技術総合研究所)生命研の石田先生のところが先導をきって方法を確立していた。石田先生と石田研究室の松井先生は Dig in situ の第一人者である徳島大学の野地 澄晴先生とともに Dig in situ をもちいた脳内遺伝子発現解析研究をされてきた(野地先生ははるばるつくばまで来られるときは一升瓶の焼酎をおみやげにもってこられていたのを思い出す)(Ishida,Neuroscience Protocols., 1996, Matsui and Ishida, Neuroscience Protocols., 1996) 。浜田は石田研究室に所属していた時にDig in situ を習い技術は取得していた。当時野地先生はホールマントin situ でスライドガラス上に極薄切片を張り付ける on slide 法をメインにされていたのもあり、石田研でもパラフィン包埋し、SCN組織切片を極薄 数μm で作成し on slide で解析する方法と10~20μm で凍結切片を作成し on slide で解析する方法を用いていた。パラフィンを用いると格段に解像度があがるが感度が凍結切片と比較すると一桁落ちる(細胞膜をDigプローブが透過しにくいのとDigプローブをアルカリ処理することもある)。凍結切片も感度は上がるが on slide では非常に発現の低い遺伝子は検出しにくいところもある。一般的に体内時計研究者は解像度よりも発現リズム解析をメインにするため抗体をもちいた組織学的解析は厚いSCN組織切片(約 50μm)を作成し、Free floating 法(浮遊法)をもちいて組織切片の両側から抗体を浸透させる組織学的解析を行うのが主流である。この方法だと感度が上がり、数匹のハムスターSCNを同時に解析できる(数がこなせる)利点もあって浜田は Free floating 法をもちいた Dig in situ をハムスターSCNで行い、SCN細胞の平均的な細胞直径が約15μm であることを考慮し、SCNの組織切片の厚さを約20μm で作製しSCNの前から後ろまで全て解析する ’SCNの解剖’ をおこなった。このことでSCN内に発現する時計遺伝子の分布パターンと蛋白質の発現分布パターン、SCNの機能による分離(光入力部位とそうでない部位との区別など)と比較することが可能になる。ハムスターSCNへの光入力はSCNを前後に4区分すると前から3番目(3/4)のところにくる。これは切片作成時に左右のSCNをほぼ平行にクリオスタットで切らないと2つあるSCNのうち片方は視神経入力があるが もう片方のSCNは視神経入力が無い1枚の切片ができることを意味する。そのためこれまで放射性同位体プローブをもちいた in situ 法ではこの区別が難しくほぼ不可能になる。Digの良いところはSCNの ’かたち’ および SCN内の血管をマーカーとしてSCNの前後および左右の詳細な位置情報が同時に得られる点である。このことができるために放射性同位体プローブ in situ で見落とされていた詳細なSCN内での時計遺伝子発現解析が可能となる。
またmRNA発現の in situ 法での解析ではantisense プローブと sense プローブのチェックが大切である。 mRNAに結合する antisense プローブと結合しない sense プローブの希釈を正確にしないと sense プローブをもいちてもSCN内でシグナルが簡単に検出される。SCNは神経細胞(グリア細胞も含む)が非常に密接に集まっているため、非特異的シグナル(いわゆる ノンスペ)が非常にきれいにSCN特異的に検出される。Digプローブだとこの antisense プローブと結合しない sense プローブの希釈が非常に厳密に制御できるため(ほぼ同程度の希釈率のantisense プローブとsense プローブでシグナルが出る出ないを確認できる)ため 検出シグナルの安心感もある。In situ 法は、ペプチド発現解析などにある抗体をもちいた特異性がある免疫反応がメインではなく 分子生物学手法のいわゆる温度によりなんでも結合するハイブリがメインであるため技術的には全く異なることを頭にいれて実験しないと検出されたシグナルが本物かどうか区別するのが難しくなる。特にSCNはノンスペが非常にきれいにでるので注意が必要である。また放射性同位体プローブ のみをもちてハムスターSCNを調べると左右のSCNの位置情報を得ることができず 恒明条件(Light: Light; LL)で左右のSCNがスプリットしてしまうようなデータも簡単にでてしまうので なんらかの方法で左右のSCNをチェックするのが重要である。
SCN内での時計遺伝子 Period1(Per1), Period2(Per2) mRNA発現をSCN前後全て解析したところ非常にクリアに1日のどの時間帯にも発現しない部位があることを発見した。驚いたことにこの部位は当時 Silver の研究室でメインに解析されていたカルシウム結合蛋白質:カルビンディンD28K (CalB) が発現する細胞群であることが明らかとなった。Silver の研究室ではSCN内でのCalB蛋白質発現細胞(CalB細胞)を解剖学的に電子顕微鏡による網膜神経細胞の直接的なシナプス形成や細胞の形や特性を詳細に調べており、かつSCN内に存在するペプチドとどれくらい共発現するか詳細なデータがあった。ほとんどのCalB細胞は視神経入力をダイレクトに受け、SCN内に約250個程度存在し、SCN内に最も多く存在するVP細胞には全く発現せず、VP細胞とはシナプスを形成しないがVP細胞からは神経入力を受ける、SCNを破壊した行動リズムが消失したハムスターにSCNを移植するとCalB細胞を多く含むほど行動リズムが回復するなどが分かっていた。そのためハムスターSCNコア領域に存在するCalB細胞がペースメーカー細胞であるとの考えがあった。浜田の出した実験結果でSCN内のペースメーカー細胞であろうCalB細胞に時計遺伝子Per1, Per2 が発現しないとはどういうことだと大議論になり、その後 より詳細にCalB細胞の解析が行われた。CalB細胞の軸索がどの細胞に向かいシナプスを形成しているかSCN全細胞の解析で どの細胞が何% CalB細胞とシナプス結合しているか、逆にCalB細胞に% SCNのどの細胞から入力があるか かたっぱしから解析して(いまでゆうSCNネットワーク解析) いった。
浜田のコロンビア大でのもう1つの仕事がCalB 細胞を中心としたSCNネットワーク解析であった。これは日本を出る前から、SCNスライスをもちいたパッチクランプ解析と Fura系プローブによるカルシウムイメージングを アメリカですぐ始められるよう準備しておくように言われていた。SCNスライスは問題なく最も得意とするところであり, Furaによるカルシウムイメージングも九大薬理の大学院修士の時に実験していた。当時ちょうど東大から九大に桐野豊先生が移られ、1992年頃はまだ珍しかった FuraによるカルシウムイメージングをSCNスライス作製が得意であった浜田はその技術をもちいて行なっていた。当時は現在のようにコンピューターも発達しておらず、ハードディスクもなく、フィルムカセットのようなものにデータを保存していたため長期間の解析などハード面で不可能で薬物投与前後の変化をみる程度であった。浜田が1999年にコロンビア大学に留学した時にはハード面やFuraも改良され研究条件が整っていた。コロンビア大にはアメリカ ベル研究所から光イメージングの第一人者である Yuste Rafael が移り in vitro でのカルシウムイメージング研究を活発に行っていた。Silver 研究室ではSCN内でのCalB細胞ネットワークをYuste研究室と解析しようとしており、CalB細胞をパッチしSCN内ネットワークをカルシウムイメージングで解析するのが浜田のテーマだった。Yuste研究室とSilver研究室は共同セミナー、実験報告会などを行い当時の最先端のイメージングをするにあたり非常に勉強になった。アメリカでは西のTsien R(GFPでノーベル賞を受賞)、東のYuste Rとよばれるほど2大巨頭で有名だがYuste は非常に気さくな人で自分が見たい現象をどのようにイメージング技術で解析するかをおこなうにあたり研究室の取り組みが非常に役に立った思いがある。単にできあがっているものを使って研究してもダメである。ある現象をイメージング解析するにあたり 検出プローブ、検出機器、画像取得プログラム、解析プログラム、遺伝子発現制御などさまざまなものが融合して初めて目的とする現象の解析が可能となる。Yusteは画像取得・解析プログラムを独自に開発し、機器類の開発もてがけ、光イメージング技術をもちいて生命現象の解明研究をおこなっており、当時だれもができないことをしようとしていた。ここでの経験が現在の in vivo イメージング研究に非常に役立っており自分の光イメージングの原点である。SCNネットワークについてはちょくちょくラボミーティングで話をする予定であるが、基本的にSCN組織培養をもちいてのリズムネットワーク解析が実際どれくらい個体レベルのリズム生成解析にどれくらい有効かと考えると実験結果の解釈は難しくなる。行動リズムを考慮したSCNアウトプットをつくりだすリズムネットワークが重要だと思われるが、In vivoの環境をある程度 形態学的に保持していると考えられる急性スライス用ですら 3次元的な whole SCNの解析は無理である。イメージングで用いられているほぼ2次元的なSCN培養ではなおさらである。個体レベルとはかけ離れた環境でのリズム形成ネットワーク(2次元SCN培養)では、そこから発振される周期性の解析は その環境でつくりだされるかもしれない機構をモデル化するだけで体内時計の本質にはたどり着けない。げっ歯類のマウス、ラット、ハムスターではなくもっとシンプルな生物のほうが体内時計解析だろうが予算獲得にはこうゆう研究も必要なことだと考えられる。数学は数字と数字の関係性を示すもので物理は数学を用いて自然現象を説明するもの、そして生物の複雑なネットワーク解析はさらに より深い生物の知識が加算される。単に数学と物理だけのネットワーク解析は数字のお遊びになってしまう。リズムネットワーク解析と簡単にいうものではないと思う。そうゆう思いもあり技術的には楽しかったSCNネットワーク解析は無理だと思い、時間生物のより根本的な機構である老化研究に進んだ。体内時計機構が止まったとしても発生・老化は進む。すなわち体の体内時計機構は年齢という軸の中の一部であり、その年齢という定まれたレールの上で時を刻んでいる機構の一部であると考えられる。そのためSCN組織を体外から取り出すとおそらくSCN組織の年齢はそこで止まるのではないかと思われる。In vitro では解析できないのも老化であり、In vivo の研究が必須条件である。そういう意味では老化を考慮しつつ体内時計を考えるほうが面白いと浜田は思い、体内時計・老化・個体解析を行っている。
【視交叉上核(SCN)研究4】
体内時計の本丸(Pacemaker) の扉は 夜 開く
哺乳動物体内時計中枢SCNの全ての細胞に通常条件下では時計遺伝子は発現していない。その発現はSCNの機能と関係するところに関係する時間で発現する。通常条件下、昼間の時刻(十分量 光を浴び、網膜からSCNにその情報が伝達されている環境)においてもSCNのある領域に発現しないが、夜の時刻に昼と同等量の光を照射すると昼間 時計遺伝子が発現しなかったところに時計遺伝子が発現する。ハムスターにおいては通常条件下、 時計遺伝子が発現しない部位は体内時計のペースメーカー細胞が存在すると考えられるSCNコア領域のCalB細胞が発現する部位の細胞群である。この現象の意味するところは通常時計遺伝子がリズミックに発現する細胞群と光刺激で時計遺伝子が発現する細胞群では、そもそも遺伝子発現機構が全く異なり細胞の種類が異なることを意味する。体内時計のゲート機構をもつ細胞群の発見である。これまでの解剖学研究者の論文は全てのSCNの細胞は同じで時計遺伝子の発現が低い夜の時刻に光刺激を受けると遺伝子発現量が増加し、時計遺伝子の発現位相が変化し体内時計の位相が変化するものである。この研究結果を発表するにあたり2つのことをクリアする必要があった。一つは解剖学研究者の今までの解釈が異なること、もう一つはSCNコア領域(Pacemaker細胞)に時計遺伝子が発現しない(Periold3遺伝子は除く)ことの理由を説明できることだった。前者は結果がクリアなため今までの解剖学研究者の論文の結果の解釈が誤っていることで決着した(アメリカではそうゆう認識になっているが日本では知らない)。後者はいろいろな説明が可能だった。
浜田は以前 SCNスライス培養実験から薬理学的に細胞表面上の受容体を刺激すると体内時計を2つの異なる機構で動かすことができることを見出してきたが、SCNの時計遺伝子発現から薬理学的に異なる2つの位相変化機構を大まかに説明できた。詳細なことはさておき、マウスは薬物に対する反応が良くない。体内時計研究においてもその通りで薬理研究および創薬研究には その結果はつねにクエスチョンがつくが、今回の結果はそのヒントになるかもしれない。
この研究の時期の2003年すぎには ほぼ 体内時計の研究は落ち着き学会でキーワードから体内時計の言葉が消えていき研究ピークは過ぎたように思われる。研究のとっかかりが簡単になったため研究のハードルがかなり下がったため当然であるが研究予算も体内時計基礎研究だけでは取れないように変化していった。
生体短時間制御の体内時計研究が落ち着き より生体の恒常性システムを解析するにあたり生命研究 すなわち 生物の一生の制御システムの解明 かつ簡単にできないところの魅力もあり生物一生の制御システムの研究を選ぶ。結局は体内時計システムの 生物の一生の制御システムの一部に過ぎないと思われ 生物の一生の制御システムを解明しない限り体内時計のシステムおよび意義も分からないのでは思われる。