第14回 国際医療福祉大学学術大会 2024

今回 第14回国際医療福祉大学学術大会で「老化や年齢依存的疾患に関わる蛋白質の同定と機能解析」で発表しました。このテーマではこれまで発表する機会が無かったので今回まとめて発表しました。

生体を短時間周期(約24時間の時間軸)で安定して一生制御するものに時計遺伝子がある。これは一生、単純に繰り返すことで説明されている(スタートラインに戻ってくる)。しかしながら生命体の体は一生同じものでなく、個体は年齢とともに常に変化している(スタートラインのベースラインは常に変化している)。この意味は一生変化していく過程には生命の軸(年齢軸)となるものが存在し、その軸に沿って体は変化し、遺伝子変化も年齢軸に沿って変化し、短時間周期の時間軸も年齢軸に沿って変化する機構の1部に過ぎないことを表す。2000年初めに様々な時計遺伝子欠損マウスが、作製されたが、いずれのマウスも幼年期、思春期、若年期、老年期を経る一生を示したことから、体内時計機構は生命の一生についてはそれほど重要ではなく、様々な環境に適応する機構(進化も含む)に重要であると考えられる。そのため集団で社会生活をする人では重要であり、自然界で生活する動物では捕食生物から逃れるため、食料を得るため重要な機構であると考えられる。当研究室では、生命とは何か?という問いに答える時に年齢軸に沿って常に変化する機構を解明することが生命体の解であると考え、年齢軸機構を解明することを試みている。その年齢軸の存在の一つである ASE/AIE 年齢軸遺伝子発現調節機構を解明してきた。これらの研究は動物個体レベルで可能であり、培養細胞や組織での解析では不可能である。研究すれば分かるのであるが、In vivoとin vitro では結果が逆になることも良くあることである。

遺伝子や蛋白質などの極めてダイナミックな発現調節制御機構により支えられている健康なヒト の体(恒常性が保たれている状態)は,一生不変ではなく年齢が進むとともに徐々に変動していく。血液凝固因子の一つである第IX因子(FIX) の発現も年齢とともに増加する。健康な体で,こ のような一見加齢とともに血栓を誘発するリスクが高まる現象がなぜ起きるのか,その生物学的意義 と分子機構,いずれも不明だった。 当研究室は、FIXの全遺伝子配列を決定し、FIX遺伝子を発見した倉知らとともにFIXの一生の遺伝子発現を制御する年齢軸機構を明らかにしてきた。FIX の一生涯の遺伝子発現は2つのDNA領域の age-related stability element (ASE) と age-related increase element (AIE) により制御され (Kurachi et al., Science 1999),さらにASE/AIE 型年齢軸遺伝子制御機構が実際ヒトの血友病Bの自然治癒機構に関与していること,ASEに作用する因子はEts-1蛋白質である(Kurachi et al., PNAS, 2010)。AIE に作用して遺伝子発現を年齢依存的に増加させる因子については不明だった。

本学会ではAIE結合蛋白質について明らかにし、年齢依存的になぜ遺伝子発現がAIEにより上昇するかについて発表した。AIEは,さまざまなFIX遺伝子の5`上流および3`下流を持つ何種類もの遺伝子改 変マウスの一生涯の血中FIX の発現量を1匹ずつ調べ,何千匹というスクリーニングを経て,年齢依 存的に遺伝子発現を上昇させる遺伝子配列として同定された。AIE による遺伝子発現調節は遺伝 子の壁を越えて機能する基本的普遍性を示す。すなわち一生発現量が変化しない遺伝子や年齢依存的に発現が減少する遺伝子にAIEを付加することにより年齢依存的に発現量が上昇する遺伝子型に人工的に変化させることができる。AIE結合蛋白質の発見は、AIE配列の特定部位を特殊ラベルし、UVクロスリンクで固定後、RNase 処理をすることで、AIE配列に結合する蛋白質を追跡し、最終的に2次元電気泳動し、MALDI-TOF 質量分析により同定した。今回、hnRNPA3の詳細な年齢依存的遺伝子発現調節機構を明らかにする目的で、マウス個体レベルでの質量分析を用いたhnRNPA3蛋白質解析、hnRNPA3siRNAによる機能解析および短時間周期制御機構である体内時計の時計遺伝子との関連を調べた。FIXは肝臓でつくられるため、肝臓の核蛋白質および細胞質蛋白質を網羅的に調べた。マウス肝臓の核蛋白質を1, 3, 6, 9, 12, 18, 21ケ月齢マウスから抽出し2次元電気泳動を行い、得られた全3113スポット (3ケ月歳の肝臓で得られた3113スポットを基準にしてこれらのスポットの蛋白質が年齢でどう変わるか全て解析) の核蛋白質をMALDI-TOF 質量分析で明らかにした。そして全3113スポットの核蛋白質の網羅的な年齢依存的発現解析を行った。そのうち14スポットがhnRNAPA3蛋白質であり、14個の翻訳修飾の異なるhnRNPA3を明らかにし、359番目のセリンが年齢依存的にリン酸化されている4つのhnRNPA3蛋白質が年齢依存的に発現量が増加することを発見した。同様に1, 3, 6, 9, 12, 18, 21ケ月齢マウス肝臓のmRNA発現をマイクロアレイにより解析したところ、年齢軸に沿ったMALDI-TOF 質量分析による蛋白質発現結果とマイクロアレイによるmRNA発現解析では多くの場合異なる結果になった。例えばhnRNAPA3mRNAは年齢で変化せず、一生安定的な発現をするが、hnRNAPA3蛋白質は様々な翻訳後修飾されたものが存在し、本研究では年齢で特徴的な変化を示す14個のhnRNAPA3蛋白質を確認している。次に年齢依存的にhnRNPA3発現を減少させるためhnRNPA3siRNAをマウスに投与し血中FIX量がどのように変化するか調べ、血中FIX量が増加することを発見した。これらの結果はhnRNPA3はFIXのmRNA非翻訳領域のAIEに結合し、翻訳を阻害する機能を持つことを示している。359番目のセリンがリン酸化されたhnRNPA3はFIX mRNA(AIE)に結合できないため、年齢依存的に血中FIX量が増加すると考えられる。

短時間周期ではどうかも調べた。時計遺伝子Period2(Per2)遺伝子非翻訳領域にAIEが存在し(マウス、ラット、ヒト共通)、結合蛋白質がhnRNPファミリーであるhnRNPCおよびhnRNPHであることを発見し、hnRNPA3とは異なる機能で年齢依存的に遺伝子発現を調整していることが考えられた。

このAIE による遺伝子発現調節機構を明らかにすることで,年齢軸に沿って遺伝子や蛋白質の発現を人為的に変更でき,それに関連する創薬や関連するさまざまな技術の基盤につながるため,AIE を制御する機構解明が望まれていました。 この研究では,加齢依存的なFIX因子発現上昇の分子機構に重要な役割を果たす蛋白質の同定に成功し,世界で初めて生物の一生涯の遺伝子発現調節機構の基盤の確立に成功しました。この発見は, 年齢軸恒常性の生物学的意義を理解する上でも重要な一歩であります。

Hamada Lab.

Why do we become more susceptible to disease and disability as we age? 体内時計研究  Department of Pharmaceutical Sciences International University of Health and Welfare (IUHW) Tochigi, 324-801, Japan