2024年7月 動体追跡技術によるリアルタイム睡眠行動解析

A novel method for measurements of sleep/wake states, feeding and drinking behaviors using the tracking technique of 3D positions in freely moving mice

Hamada T*, Sutherland K, Ishikawa M, Saito J(薬学5年生), Miyamoto N, Honma S, Shirato H, Honma K-I.          ( * Correspondence)

Biochemical and Biophysical Research Communications, online 10 July, 2024

  動体追跡法による睡眠解析に関する我々の論文がBBRCに掲載されました。我々の動体追跡技術は3次元空間で予測不可能な動きをするマウスの体の特定部位を1mm以下の誤差で3次元座標をリアルタイムに正確に同定し解析できます。動体追跡技術でマウスの頭の動きを0.5sec 毎にリアルタイムに追跡し、3次元空間でマウスが飼育ケージ内で、いつどこで何をしているかリアルタイムに明らかにし睡眠と覚醒、飲水行動、摂食行動を同定します。我々はマウスを自動追跡、自動行動解析するアプリケーションソフトを開発し「SleepDetect」と名付けました。

  以前我々が開発した3次元空間での自動遺伝子発現解析アプリケーションソフト「MouseTracker」と連動することで、様々な行動をしているマウスの各組織の遺伝子発現を同時に解析でき、遺伝子発現から行動解析まで長期間自動解析できるようになりました。

  一般的にビデオによる画像を解析するのに、実験後時間をかけて画像解析することはよくされていることですが、3次元空間で自由に行動しているマウスを長期間、リアルタイムで遺伝子発現、睡眠と覚醒、飲水行動、摂食行動を全自動で同時解析し、発現リズム解析ができるのは本システム以外ありません。実験終了後の静止画像解析とリアルタイム解析では全く別次元レベルのものになります。

マウスにはマウス専用の睡眠解析ソフトが必要である なぜならマウスはヒトで例えると睡眠障害に分類され睡眠が異なるからである

 睡眠研究も同様であり、寝ている起きているなどの判断は睡眠解析ソフトを利用すれば、実験終了後、自動解析できますが、ほとんどの場合、手動でデータを目で確認しながら修正していくことが必要です。特に生体リズムの研究になるとかなりの長期間の睡眠解析をする場合があり、非常にデータ解析に苦労します。さらにマウスなどの動物は、ヒトと睡眠覚醒行動が異なり、夜行性動物では明るい昼間の睡眠時間帯であってもあまり深い眠りにならず、ちょくちょくと目を覚まし活動する行動をとります。この行動は赤外線センサーなどでみるとリズム行動開始点がしっかり見えて夜活発に動き、昼間活動量が少なく夜行性リズムを示し、生体リズム研究では問題はないと思われますが睡眠研究は別物です。

 睡眠はもともと観察が基本だと思われます。睡眠時の脳波の分類で睡眠解析 以上に外見上の判断も重要です。ヒトは徐々に深い睡眠になり約90分周期でREM睡眠が出現し、睡眠の深さが変化する(このサイクルを繰り返すと睡眠の深さが徐々に浅くなる)。その時の出現する脳波の周波数から睡眠ステージを判断するが、一般的には睡眠をある程度の時間単位で区分し(1エポック、約30秒ほど)、その時間単位の中で主にでてくる脳波周波数のもので睡眠を判断する(1エポックだけでなく数エポック単位で行う時もある)(解析にある程度の時間が必要である)。ヒトの深い睡眠で徐々に変化するような睡眠には周波数解析による解析プログラムも対応可能と考えられます。マウスの生体リズムの基礎研究となると、睡眠解析を1~2か月と長期間計測する時も必要です。実験終了時に得られるデータをヒト同様の睡眠解析ソフトで普通に解析する場合、自動判定で膨大な量の睡眠解析を行うのが一般的だと思われます。この場合、もともと深い眠りになりにくく、急速に睡眠の深さが変化する(覚醒する)のを脳波周波数解析でどれくらいの正答率で睡眠・覚醒を同定できるのか疑問です。かなりの数の目視による修正が必要であると思われます。

  そこで我々は脳波周波数解析とは全く異なるシステムを構築しました。マウスの睡眠の長期間解析を可能とする体の動きを3次元空間で、ミリ単位で追跡し行動・睡眠・摂食行動・飲水行動をリアルタイムで解析するシステムである。飼育ケージ内のマウスが3次元空間でいつ、どこで、何をしているか3次元プロット図で行動を可視化し、行動の種類を同定します。データを0.5秒毎に取得するため、睡眠判定にかかる時間は最長で10秒しかかかりません。行動軌跡である3次元空間行動プロット図がデータの信頼性を裏付けます。本論文では動態追跡によるREMとNon-REMの区別をしていません。マウスの場合、覚醒とREM睡眠の判定は容易です。Non-REM時の解析判定は容易ではありませんが、追跡プログラムのアルゴリズムの改変で対応は可能であり、今後検討していくことで可能になると思われます。

  ヒトは本能に逆らって行動することが出来きます。本来体はまだ眠りたい時に、仕事などのために目覚ましの力で、本能に逆らって覚醒し行動する。マウスは本能のままに行動すると思われ、起きたいときに起き、眠りたいときに眠る。恒暗条件の真っ暗な状況で生活していても、生体活動リズムが規則正しく計測されるのはこのためです。ヒトでみられるような夢遊病などの状況が、マウスで誘発さえるかは分かりませんが、動態追跡による睡眠解析と脳波周波解析を同時に行うことで現在まで不明であったいろいろな事が明らかにできるのではないかと考えられます。

  今回、本システムを用いて我々は体内時計機構の根幹である ネガティブフィードバック機構を形成する因子の一つ cryptochrome1,2 double knock out (Cry1,2K.O.)マウス の睡眠解析を行いました。赤外線センサーをもちいてCry1,2K.O.マウスの行動リズムを解析すると、野生型マウスと比較して、24時間のリズム性が消失しており、生体リズムが破綻していると考えられます。SleepDetect による3Dプロット解析においても野生型と比較し、主観的夜と主観的昼の差がみられず、行動リズムのリズム性は破綻していた。野生型は活動期は大胆に動き回り、動かない時はじっとしており行動の差がみやすいのですがCry1,2K.O.マウスはちょこちょこ動く感じです。SleepDetectと脳波解析による睡眠解析においては、野生型と比較して脳波解析においてCry1,2K.O.マウスはδ波、θ波、α波が同様にきれいに観察されました。しかしながらδ波、θ波、α波の主観的夜と主観的昼の出現パターンに差がみられませんでした。SleepDetect においても同様の結果を得ました。この事は、脳神経活動の集合電位であるδ波、θ波、α波を睡眠・覚醒形成の基本と考えるやり方に当てはめると、Cry1,2K.O.マウスの睡眠・覚醒機構は正常だと考えられます。ただし睡眠と覚醒の出現パターン(出力)のところに異常があるものとも考えられます。すなわち体内時計機構の異常により野生型と違う睡眠・覚醒が表現型として出てきている可能性があります。元来野生型マウスもヒトの睡眠障害モデルのようなもので睡眠と覚醒の出力があいまいなところがあることを考慮すると、約24時間周期で出現するサーカディアンタイム12(CT12) の開始点の形成機構、行動、神経活動、ホルモン分泌などのCT12決定機構や、スケルトン形成リズム、予知行動形成リズムのCT12 決定機構が生体統一リズム形成に重要と考えられます。


Hamada Lab.

Why do we become more susceptible to disease and disability as we age? 体内時計研究  Department of Pharmaceutical Sciences International University of Health and Welfare (IUHW) Tochigi, 324-801, Japan