薬学部での薬理学
薬剤師国家試験まで残り50日をきり、2022年がスタート。
国家試験は2日間、朝から晩まで 問題345題をとかないといけないため
体力も必要となってきます。薬学で学んだ膨大な知識は、今後どの道に進んでいこうとも役立つと思います。
自分自身、中枢行動薬理の研究を軸に生体リズムや老化研究をマウスやラットをもちいて一貫して行ってきていますが、薬学を学んで良かったと思っています。
水のタンクと考える生体に薬物を投与することは、単純に薬物が溶媒である水溶液にとけるのとは異なる。人の体は薬物の投与部位ごとに性質が異なる。吸収率、溶解率など異なる。局所的に作用させるのか全身に薬物を循環させてターゲット部位に選択的に作用させるのか、Blood brain barrier を透過させ脳に作用させるのか、副作用を最小限に抑え、主成分の作用を最大にするのかの基本はやはり、薬学部で学ぶ総合的な薬学の知識が必要になる。薬学は「生命や健康」について化学的、生物学的、物理化学的、数理学的に研究する総合的な応用化学の学問である。薬は水のタンクである人の体に入ってから 体の各部位と物理化学的に相互作用しながら薬のターゲット部位である細胞に変化を与えるものである。薬は「精密機械」のようなもので、薬の主成分がターゲットの組織や生体現象に作用するために、また様々な生体の状況に対応できるように様々な添加物を薬に含ませ、正確に薬理作用を出すように設計されている。薬は溶解することから始まるが、錠剤や粉体の場合、固体の表面が「ぬれ」の状態から開始する。個体の表面積(粉体の表面積)を計算し、表面にどれくらい液体が吸着するかの吸着式で、表面・界面張力の式やヤングの式で溶解の過程を知ることができる。薬物吸収には生体の各組織のpHが異なることを考慮しなければならず、また細胞膜を通過しなければならない。そして拡散し、組織内での半減期が問題になる。そのため ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式、Fickの第1,2式に基づいたノイエス・ホイットニー式、ヒクソンクロウェルの式やその他の式が必要になる。溶解・吸収後、血中に入った薬物の薬物血中濃度・半減期に関しては線形1,2 コンパートメントモデル、全身・組織クリアランスの式、ミカエリス・メンテンの式などその他さまざまな式を用いて生体に投与した薬物の変化の過程を追っていく。液剤、軟膏剤の場合は、乳液と懸濁液の知識、液体の流動と変形に関するレオロジーの知識、マックスウェルモデルとフォークトモデルの知識などが必要となってくる。投与した薬剤の主成分が細胞表面上の受容体に到達するまでは非常に多くの知識が必要となってくる。血中に入った薬物が受容体に届くまでは高分子の知識とドラッグデリバリー(DDS)の知識が、受容体刺激には時間薬理学的な知識も必要となり、薬物の副作用ではなく薬物主成分の薬理効果を検討できることになる。
乳剤であるリポソーム製剤もDDS製剤であるが、高分子ポリエチレングリコールを付加したステルスリポソーム製剤は血中半減期を延長することが可能であり、薬剤の効果を高めることができる。モデルナやファイザーのRNAワクチンの骨格になっている。以上のように薬の溶解・吸収から体内動態、受容体刺激まで様々なことを考慮して薬は設計されている。
薬学では生体を化学的、生物学的、物理化学的、数理学的な視点からとらえ、薬物の効果を解析していく。そして薬理学は薬学部で薬学を学ぶことでその重要さが分かる。
基礎研究において単に薬物を投与して、その表現型である薬物効果だけをみて単純に解析することが一般的に行われている。これらは薬学部以外の学部で習得する知識でも可能だと思われる。しかし、その薬物の効果が本当に薬物主成分の効果であるかどうか本質的なデータの見極めや解析は、薬学を学ばないと分からないだろうと思う。本物のデータの見極めや解析は薬学部で薬学を学んだもののみが得られる特権だと思う。薬物を投与してその結果、出現する体の反応をみる薬理学の本質を薬学部以外で理解するのは難しい。自分は薬学部に入り研究室として薬理学研究室に入り薬理学を専攻し、修士・博士課程を、薬理学を中心としてげっ歯類の体内時計および老化研究を他の学問領域に応用して研究してきた。薬物をもちいた研究を行うにあたりこの知識が非常に役立っていると思う。特に基礎研究においてマウスやラット個体をもちいた中枢行動薬理などは、単に薬物を溶媒に溶かし、薬物を投与し、薬物の効果が出たときに薬学の知識がないと難しいのではと常に思う。基礎研究では自分で薬物を溶解(溶媒も自身で選ぶ)し、添加物はあまり入れず、薬理効果をみる場合が多い。この場合、薬物投与後、固体に出てくるさまざまな表現型の薬理効果が、本来調べたい受容体への効果かどうかを検討するには、さまざまなことを調べ検討しないかぎり本物の薬理効果を知ることはできないと思う。生体リズムの知識を追加すると、生体の多くの受容体の感受性には日内リズムがあり、薬物の効果は昼と夜で劇的に違うことがある。本物の薬理効果を知るには総合的な知識の融合が必要である。
薬学部では6年間で薬学の膨大な量を学ぶが、うまく融合して社会に貢献していってほしいと願っています。
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